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再生可能エネルギー法 (EEG) – EU 競争法に抵触か –

EU 委員会はドイツの再生可能エネルギー法 (Erneuerbare Energie Gesetz) が、EU 競争法に抵触しているとして本格的な調査に踏み切ると発表した。売上高に対する電力コストの割合が高い、いわゆるエネルギー集約型企業に対する例外措置が、その対象となっていた企業に不当な競争優位を付与していたとするものである。ドイツ企業は、数十億ユーロにのぼる追徴金支払いを迫られる可能性がある。

 再生可能エネルギー法 (以下EEG) は、再生可能エネルギーにより生産された電気を電力事業者が固定価格で買い取ることを規定している。このシステムは、全ての消費者に対して、通常の電気料金に上乗せして課される負担金 (現在1キロワットあたり5.3セント) によって保たれている。特定のエネルギー集約型企業は、高い電気料金によって外国企業との競争において遅れを取らないように、この負担金の支払いが免除されていた。つまり、一般消費者により多くの負担金が課せられ、一部の企業は、安い電力によって自身の競争力を担保できたのである。

Umlage

 ブリュッセルの司法担当者は、この負担金の仕組みに焦点を当てて調査を進めている。負担金の支払い免除とそれによる安価な電力の利用は、ドイツ企業の競争優位に結びついており、これは国家による自国企業の不当な補助にあたるというのである。EUにおいては、国家による補助金等の支援は、EU委員会による承認を必要とする。委員会は、域内の全ての企業にとっての平等な競争環境の実現に努めるのである。委員会は、先週水曜日に、ドイツに対する法的手続きを開始すると発表した。この手続き開始は、ドイツ企業に対する不当な特例措置の将来的な廃止のみならず、これまでに免除された料金の遡及的な支払いを課す事も念頭に入れていると見られる。 

EEGの負担金に関する企業の優遇措置は、元来国内での批判も多分に受けていた。

 企業の負担金が免除されるということは、その分一般消費者に対する負担が大きくなる事を意味する。部分的な負担金免除が開始されて以降、免除の認定を受ける企業の数は上がり、それに比例する形で一般電気料金も上昇を続けていたのである。直近の部分的法改正では、企業に対する負担金免除を受けられる条件が引き下げられた為、ますます多くの企業が免除の申請を行っている現状がある。なぜ、一般家計が、自動車産業、保険業界などの負担金を肩代わりしなくてはならないのか、そういった批判が世論に根強い。もちろん、EEG の負担金は、再生可能エネルギーの利用普及の中心的な促進要素である。しかし、本来全ての利用者に同等に分配されるべきであり、特定の産業が、国際競争力を保持する為に、負担金の大部分を免除され、それらを一般の消費者が肩代わりすることに対する批判が強いのである。試算によると、企業に対する免除額の総額は約70億ユーロにのぼると見られている。(家計1世帯あたり年間36ユーロの負担増にあたる) グリーンピースのエネルギー専門家であるTobias Austrup氏によると、EEGに対するブリュッセルの批判は、企業に対する特例措置を主張してきたPhilipp Rösler (FDP) 経済大臣とPeter Altmaier (CDU)環境大臣への痛い一撃であると考えている。今回の声明によって、連邦政府は速やかな EEG 改革の実現を促されたと言って良いだろう。

Strompreis

しかしながら、高騰する電気料金に対する産業界からの悲鳴も大きい。

 ドイツ産業連盟 (BDI) 議長のUlrich Grilloは、産業空洞化に対する危機感を露にした。このまま電気料金が高騰を続けた場合、ドイツの産業は大きな損害を被ることになる。電気料金の高騰は、百万の雇用が関わる問題であると、同氏は語る。エネルギー集約型企業だけでも、90万人の就労者を抱えている。このまま、企業の国際競争力を保持しうる電気料金価格が実現されなければ、多くの産業はその製造拠点をドイツ国外に移転する必要に迫られるのである。

 また、欧州のエネルギー政策のあり方そのものにも疑問が投げかけられている。EUエネルギー分野担当委員のGünther Oettinger氏は、電力会社E.onでの催しに際して、EEGの閉鎖的なシステムに対して疑問を投げかけ、更なるエネルギー政策の欧州化を促した。同氏は、ドイツで発電された風力エネルギーのみが政府による助成金を受ける事ができ、ノルウェーやデンマークの電力会社が自身で発電した電力をドイツに輸出する際には、それら助成を受ける事ができないのは問題があると語った。風力発電に適した土地、日射が豊富な地域での発電を促進せず、ドイツのように日射量の少ない国でプロジェクトを起すのは非効率だというのである。より適材適所なエネルギー政策を実現するには、国境を越えた大きな法的枠組みとエネルギー網が拡充されなくてはならない。

 ドイツは、再生可能エネルギーのよりいっそうの運用と、一般消費者の電気料金の値下げ、自国企業の国際競争力の確保など、調整の難しい問題にあたっていかなくてはならない。選挙後の新政権が、どのようなエネルギー政策を打ち出すのか見物である。

出典:

1.Spiegel Online の記事 2013年7月14日
2.mdr(中部ドイツ放送)の記事 2013年7月15日
3.Frankfurter Allgemeine のオンライン記事 2013年7月14日
4.Manager Magazin の記事 2013年7月14日
5.Stern.de の記事 2013年7月15日

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最終変更日時 2013年7月30日7:20 PM